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Column2
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デジタルハイビジョンムービー・HD1開発秘話
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日本 VICTOR AV&マルチメディアカンパニー
商品企画部長・並木康臣さんが語る
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2003年3月。ビデオ映像の世界に一つの革命が起きました。デジタルハイビジョンムービー・GR-HD1の登場です。
従来の TV Set やビデオの規格(525規格)に比べて飛躍的な高精細・高画質を実現するハイビジョン(HD規格)が、アマチュア用のVideo cameraで実現したのです。それまで、衛星デジタル放送で直接見るか、それをD-VHSで録画して楽しむことしかできなかったハイビジョン映像を誰もが自分の手で撮影できる時代がやってきました。
HD1の登場は、アマチュアだけでなく、放送業界にも大きな反響を巻き起こしました。「いつかは出ると思っていたけど、こんなに早くアマチュア用のハイビジョンカメラが出るとは…」というのが筆者(プロフェッサーM)を含む多くの放送関係者の印象です。
アマチュアビデオの世界、いや、映像の世界そのものに大きな衝撃を与えたデジタルハイビジョンムービー・GR-HD1の登場。その背景には、どんな技術革新があったのか。また、そこにあった苦心談は…
HD1の開発を初期段階から担当された日本 VICTOR AV&マルチメディアカンパニー商品企画部長の並木康臣さんに聞いてみました。
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日本 VICTOR AV&マルチメディアカンパニー
並木泰臣商品企画部長
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Q.
アマチュア用のデジタルハイビジョンムービーの開発は、いつ頃、どんなかたちで始まったのでしょうか? |
【並木】日本 VICTOR のデジタルムービーへの取り組みは、1995年に発売された世界初の小型デジタルVideo cameraGR-DV1の開発に始まります。DV1に代表されるポケットムービーでは、「小ささ」をキーワードに市場を開拓してきました。
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プログレッシブVideo camera
GR-DVL
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「小ささ」を目指す一方で、デジタルムービーには、「高画質」を追求するというストーリーが存在します。これは、1997年に発売されたGR-DVLが出発点です。DVLは、プログレッシブスキャンCCDを搭載し、単板CCDでは世界初の水平解像度約500本を実現しました。私たちは、この時すでに、プログレッシブスキャンCCDの延長線上にデジタルハイビジョンムービーを構想していました。
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Q.
TV Set 放送はインターレース、一般のDVCもインターレースという状況下で、プログレッシブを選択した理由はどこにあるのでしょうか?
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【並木】プログレッシブの優位性は、まず、すべてのフィールドにすべての情報が入っているという高画質にあります。インターレースの二倍の情報量が有るということです。
そして、パソコンとの親和性です。パソコンのモニターはプログレッシブですから。また、パソコン内で映像データを扱う際にも、プログレッシブの方が有利です。
より進んだ TV Set モニター、すなわち、プラズマディスプレーやliquid crystal televisionも、本質的にプログレッシブの機構を持っていますから、これらとの親和性を考えた時にも、プログレッシブが良いわけです。
ですから、カメラ部だけを見れば、デジタルハイビジョンムービーへの歩みは、プログレッシブスキャンCCDの高画素化を目指す開発だったとも言えます。
しかし、100万画素レベルの画像を1秒間に30枚、休みなく描き出すわけですから、これは大変な開発でもありました。多くの技術者が苦心した結果、遂に実現したものです。
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Q.カメラ部以外では、デジタルハイビジョンムービーを支えるテクノロジーとして、どんなものがあるのでしょうか?
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【並木】一つは映像データの圧縮技術です。
これに関して、日本 VICTOR には、D-VHSでハイビジョン映像のMPEG2圧縮を世界で初めて実現したという大きな蓄積があります。また、ご存じの通り、衛星デジタル放送は、ハイビジョン映像をMPEG2圧縮して送出しているのですが、NHKを始めとする放送局で使われている放送用MPEG2エンコーダーにおいても、日本 VICTOR は高いシェアを獲得しています。このMPEG2圧縮のテクノロジーがHD1に大きく活かされています。
MPEGという規格は、世界中の多くのメーカーが考えを持ち寄ってできあがったものですが、その中で、日本 VICTOR は中心的な役割を果たしてきたという自負があります。実際、多くの特許を持っています。
もう一つ大切なのは、記録部の技術です。当初、メモリーやハードディスクといったことも考えましたが、情報量の問題やコスト面を考慮して、MiniDVテープという選択をしました。すでに市場にあるテープなので互換性の問題も有りませんし、1時間テープで11ギガバイトの容量が有りますから、充分にハイビジョンの記録に耐えうるのです。
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Q.HD1は、一般の TV Set へも出力できるなど、出力の互換性が良く考えられていますが、この意図はどんなところにあるのでしょうか? |
【並木】 TV Set の世界、ビデオの世界は、NTSC(525規格)からハイビジョンへの過渡期に入っています。従って、お客様の側には様々なモニター環境があるわけです。これへの対応は考えざるを得ませんでした。また、VHSの開発に代表されるように、日本 VICTOR には、「互換性」をとても大切にする文化があります。
HD1の互換性は、英語で言うとInter-operability、すなわち「相互運用性」というレベルで考えています。出力では、デジタルハイビジョン TV Set はもちろん、アナログハイビジョン TV Set や普通の TV Set へも出力可能です。撮影モードも、750P(HD)の他に、525P(SD)と525i(DV)を備えています。だからこそ、Inter-operabilityを充分に考えたと自負できるのです。
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Q.デジタルハイビジョンムービーの登場そのものにも驚かされましたが、同時に、放送局でもあまり見かけないハイビジョンのノンリニア編集システムが開発されています。狙いはどんなところにあったのでしょうか?
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【並木】まず、ハードでハイビジョンの編集システムを考えると、とても一般のお客様からは手の届かない価格になってしまいます。しかし、ハイビジョンで撮ったものは、ハイビジョンで編集しなければ意味がない。そこでノンリニア編集ということにしました。
MPEG2編集の難関は、時間軸方向に映像を圧縮しているので、編集点が6フレーム(0.2秒)毎にしか選べないという制限でした。これは、ソフト開発メーカーの協力を得て、編集時にはMPEG2を30フレームに展開し、完全な自由度を実現する優れたノンリニア編集ソフトを搭載することで解決しました。
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アクセサリーキットに付属する
ノンリニア編集ソフト
「MPEG Edit Studio Pro 1.0LE」
のユーザーインターフェース
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Q.デジタルハイビジョンムービーの登場がアマチュアの映像文化に及ぼす影響について、どうお考えですか? |
【並木】デジタルハイビジョンムービーの登場で、人間の視覚として満足のいく高画質映像が自分の手で撮れて、家庭で楽しめるという時代がやってきたと思います。
個人的には、デジタルハイビジョンムービーの魅力を十分に楽しむために、お客様一人ひとりが、時には映画監督になったつもりで、多彩なマニュアル機能やフィルターなども使って『作品作り』に挑戦して頂けたら素晴らしいなと考えています。
プラズマディスプレーやprojectorで上映すれば、まさに映画館並の高画質と迫力をお楽しみいただけます。プライベートデジタルシアターの時代が始まったということです。
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