プロデューサーのジョージ・ウェインは1970年、カーネギー・ホールとリンカーン・センターをオフ・シーズンにチャーターした。野外大 event であるニューポート・ジャズ・フェスティバルの熱気を、ニューヨーク市内にも持ちこんだのだ。
1984年にはJVCジャズ・フェスティバルと装いを改め、今年で24回目を迎えたJVCジャズ・フェスティバルの魅力は、大ホールでのコンサートだけにとどまらない。ニューヨークの地域サービスと連携した企画コンサートは、ジャズのメッカならではの見逃せないラインナップをそろえている。
今回から3回にわたって、日本ではあまり知られていないJVCジャズ・フェスティバルのもう一つの魅力をお伝えしたい。
セイント・ピータース・チャーチ
マンハッタン・ミッドタウンにあるセイント・ピータース・チャーチは、モダンなデザインの教会だ。日曜日午後のミサ、”ジャズ・ヴェスパー”を執り行い、デューク・エリントン(p)や、マイルス・デイヴィス(tp)らの追悼式典を催した。6月から8月にかけての毎週木曜日の午後には無料コンサートを提供しており、オフィス街の昼食時に彩りを加えている。
JVCジャズ・フェスティバル期間中の6/21にはダウンビート誌との提携企画で、バークリー音大、ウィリアム・パターソン大、イーストマン音楽院と東海岸を代表する名門音大ジャズ科の、選抜メンバーによるコンサートが催かれた。
ヴォーカルの逸材ポーリン・ジーンを擁し端正なアンサンブルを聴かせるバークリー音大、大学院生中心のテナー・トランペット・トロンボーンの3管フロントで、ジャズ・メッセンジャーズのようなトラディショナルから、アヴァンギャルドな要素をも併せもつイーストマン音楽院のマイルス・ブラウン(b)・セクステット、荒削りながら随所に光るアドリブを聴かせてくれたウィリアム・パターソン・ジャズ・セクステットには、担当教員のマルグリュー・ミラー(p)が一曲飛び入り参加し花を添える。
将来、ジャズ・シーンを賑わすかもしれない若手達 がそれぞれの大学の特色を反映した演奏で楽しませてくれた。
ジェリ・アレン(p)は、80年代半ばにスティーヴ・コールマン(as)の提唱するM-BASE理論に結束する若手グループの俊英ピアニストとして、シーンに登場した。ポール・モチアン(ds)、チャーリー・ヘイデン(b)とのトリオや、オーネット・コールマン(as,tp,vln)・グループへの参加と、一癖二癖あるベテラン・ミュージシャンとの共演で評価を高め、自己のグループを率いても活躍している。
ジュリ・アレン
この日のアレンは、ハーレムの目抜き通り125丁目のほぼ中心に位置する、アフリカ系アメリカン人アーティストにスポットを当てた美術館、スタジオ・ミュージアム・イン・ハーレムの中庭ステージで、レギュラー・トリオに新進気鋭の若手タップダンサーのモーリス・チェストナットが特別参加したスペシャル・ユニットで登場する。
ジュリ・アレン(p)、ケニー・デイヴィス(b)、カッサ・オーヴァーオール(ds)、モーリス・チェストナット(タップ・ダンス)
まずはトリオで、新作からのオリジナル曲と、スタンダードの”ソウル・アイズ”。アレンの、リリカルとアグレッシヴが絶妙にブレンドされたプレイが冴えている。ベースのケニー・デイヴィス、ドラムスのカッサ・オーヴァーオールとのコンビネーションも鉄壁だ。ステージにチェストナットが現れる。全身をフルに活かしたダンスのビジュアルにも圧倒されるが、そのシューズが叩き出すリズムは、オーヴァーオールのドラムスと交錯し、アレンを煽る。真っ向から受け止めたアレンもパーカッシブなアプローチで切り返し、ポリリズム(複合リズム)・アンサンブルが形成される。全身汗みどろになったチェストナットは、スロー・ボッサ・ノヴァ曲では、一息ついているが、またアップ・テンポ・チューンでは、ステージ・ボードを踏み鳴らす。鋭いリズム・センスを持つアレンに、ブースターが装着され、スピードが倍加したようだ。
スタジオ・ミュージアム・イン・ハーレム(中庭)
ハーレムならではの濃い観客達も興奮の坩堝に巻き込み、ビルの谷間に、一体化した熱いリズムの応酬が、いつまでも鳴り響いていた。(6/21,27/2007 於NYC)
■ connectionリンク
セイント・ピータース・チャーチ http://www.saintpeters.org/
スタジオ・ミュージアム・イン・ハーレム http://studiomuseum.org/
ジェリ・アレン http://www.geriallen.com/