音に関わる仕事の人とばかり付き合っていると、常識だと思っていたことが、世間ではそうでもない、ということに時々気づかされることがあります。
遮音と吸音に対する認識もそのひとつです。
「グラスウールは吸音材だから、騒音源の前にグラスウールを置くと音を吸って音量を下げてくれるんでしょう?」
「壁の表面にグラスウール貼ったら遮音性能上がりますよね?」などという問いに、建築音響に携わっている人なら普通、ああ、シロートが陥りがちな誤りだと心の中でつぶやきながら「いや、そうはならないんです。」と答えるでしょう。
でも、相手がさらに「グラスウールが吸音率0.9もあるってことは90%の音を吸い取ってくれるってことでしょ?何で音が減らないんですか?」と反撃してきた時、即座に相手に分かるように説明できる人はかなりのツワモノだと思います。
落ち着いて考えてみれば、吸音率というのは音が壁に音がぶつかった時、はね返ってくる音(反射音)とはね返って来ない音に分けて、はね返って来ない音の方の比率を言ってるんだから、壁を通過した音がその後どうなろうが知ったこっちゃない値なんです。
音が材料の中で消滅しようが、減衰なしに裏側にそのまま抜けて行こうが関係無い値なんです。
学生の頃、吸音率=1というのは廻りにな〜んにも無い空気中に浮かんでる中で声を出した状態だと教えられました。何の反射も返って来ないですもんね。
吸音率100%の空気だけど、その遮音性能は、というとやはりゼロでしょう。
こんな間違いが起こるひとつの理由は、「吸音率」という名前にあると思います。単語だけを見ると、ホコリ取りフィルターみたいに通過する音を吸い取ってくれると思うのも無理はありません。「反射しない率」という名前だったら、誤解する人も大分減るんじゃないでしょうか?
それにしても、ホントに音を吸い取ってくれる材料があったら、音響工事って楽になるでしょうね。音を吸う掃除機なんていうのも出来て、お呼びが掛かるとゴーストバスターズみたいに機材抱えて音退治に出動したりして・・。