残響時間というのは部屋の中の音の響き具合を表わす数値で、簡単に言うと、部屋の中で大きな音を出した後、どのくらいの時間響きが残っているかという数値です。
部屋の音響性能を表す時、1番目か2番目に語られるような数値で、残響時間以外に音響性能を表す様々な数値が研究された今でもやはり音響設計には残響時間の検討が欠かせません
最近は一般にも大分知られる言葉になり、それは建築音響への認識が高まってきたということでいいことなのですが、誤解されていて困ることもあります。
大分前の話なのですが、「このホールは音響を良くしたいので残響時間が2秒になるようにしたいんですよね。」と一度ならず言われた時期があります。我が国のクラシックコンサートホール建設ブームの始まりともいえる大阪のザ・シンフォニーホールの完成時に「残響2秒」という本が出版され、建築音響の世界や残響時間という言葉を世に広めてくれました。しかし、そこでどんなホールでもベストな残響時間は2秒であると誤解してしまった人も少なからずいたということです。
笑い話のようですが、「去年出来た隣町のホールが1.1秒なので、Click Hereの町は1.2秒にしたらもっと音響がいいんじゃないですかね?」と言われたこともありました。
実際には部屋の大きさと用途によって最適だと感じる残響時間は異なっており、300人規模のホールですと2秒は響き過ぎの感じですが、ドーム等大空間の2秒はむしろ短い感じがします。
どのくらいをめやすにするべきかについては幾人かの研究者が「最適残響時間推奨値」として推奨値を提案しており、本HPの中にも参考資料として掲載しています。わが国では大規模なコンサートホールですと2秒くらい、市民会館クラスは1.5秒くらい、中小の多目的ホールですと1秒くらいのものが多いですが、もちろん、右へならえが良いわけではなく、枠にはまっていない音の良いホールもたくさんあります。
そして、同じくらいの残響時間でも、びっくりするくらい印象の違うこともあります。
ついでに、一般に残響時間というと中音域の500Hzにおける残響時間を代表させて言いますが、実際には低域も高域も全部同じ残響時間であることはまずありません。高域の残響時間が長いとか、低域が短いとか、そういった残響時間の周波数特性も残響感を左右する大事な要素です。
それでは、残響時間が長かったり短かかったりすると、どんな影響があるのでしょう。
クラシック音楽は豊かな残響があった方が良くて、スピーチは残響過多だと明瞭度が悪くなる、というのはよく知られています。映画館は、かつては残響時間が長めが良いとされていましたが、映画の音がサラウンドに変わり、効果音制作者の意図をより鮮明に観客に伝えたいという希望から、現代では非常に短い残響時間が良しとされています。音楽でもロックやポップスのように拡声設備を使用する場合はクラシックと違い残響時間が短めの方が好まれます。レストランは、社員食堂のように安い所は残響時間が長くて騒がしいですが、高級レストランになると残響が短くて落ち着いた感じになる傾向があります。(というほど高いお店に行ったことがないのでこれはイメージですが・・)
体育館やドームは通常は残響過多なのでアナウンスや式典挨拶等スピーチの明瞭度を上げるために吸音処理が necessary のですが、逆に残響時間が短か過ぎると声援や拍手の音が淋しくなって盛り上がりに欠けるという面もあるそうです。
住宅でいえば、最近の住宅は、床はフローリング、天井と壁はボード貼りで残響時間は長くなる傾向です。昔から日本人に愛されてきたのふすまや畳やたくさんの隙間で程よく吸音された部屋はだんだん少なくなってきています。今の子供たちが大人になった時はボード貼りの部屋の響きが一番落ち着くように感じたりするのでしょうか?