室内の音響設計を行う時に必ずと言っていい程やるのが残響計算で、設計図面がある程度まとまった段階で完成後の残響時間を予測計算するという作業です。残響計算の式は何種類かありますが、よく使われているのはEyring(アイリング)の式と呼ばれる@式です。
logなんかが入っていると一見難しそうですが、よく見ると、部屋の容積と面積と内装材の吸音率が分かれば後は電卓で計算できるという式なんです。内装に使う材料の吸音率はデータブックやメーカーのカタログで調べられますので、後は部屋の容積と内装材料別の面積を根気良く拾っていけば準備OK.部屋の平均吸音率は、内装材の吸音率×使ってある面積を部屋の壁や天井、床全てについて足し算し、面積の合計で割って平均を出した値です。つまり、根気は必要だけど難しい計算ではないので「たかが残響計算」。
しかし、残響計算をなめてはいけません。一見簡単そうで奥が深〜く、単純そうで落とし穴だらけなのが残響時間というものです。計算の精度が悪い、というよりは、建物の条件によっては精度が無いに等しいことも起こります。職場の先輩は、単純に計算した値と実測値を比較してみるとその差が3倍になったという経験があるそうです。
計算が実測値と合わない理由はたくさんあります。同じ量の吸音材を使ってもどう配置するかによって残響時間は変わります。室形や天井高による音の拡散の程度によっても吸音材の効果は変わります。データブックやカタログに出ている吸音率は残響室という実験室で測定されたものですが、実際に使った時の吸音率とは異なりますし、測定する残響室によってさえ異なったデータになることも知られています。その他にも材料によっては施工した時の裏側の条件で驚くほど吸音率が変わる場合がある等々・・。これらのことを無視してただ計算しただけでは、それこそ測定値が計算値の3倍などということも起こり得るのです。
これらの要因によってもたらされる誤差を的確に修正する方法は無いので、結局は残響計算を行う人の知識と経験による修正が頼りだということになります。
もう「たかが残響計算」とは言えないでしょう?
残響計算でやっかいだな、と感じるのは予測した数値がひとり歩きして、ぴったり合うかどうかが音響設計の良し悪しだと評価されかねない状況になった時です。計算上の小数点以下2ケタ目の数値なんていうのはほとんど意味が無い数字ですが、妙に気にされる担当者に当たる時もあります。もちろん予測したからには精度が悪いと問題ですが、やっている方の感覚としては±5%程度の誤差は上出来、±10%以内ならまあそれくらいは仕方ないかという程度です。そしてもっと精度が欲しい時には中間測定を行ったり、最終的に調整出来る部分を残しておいたりして精度を上げていくのです。しっかりと音響的な検討がされていれば多少計算値と違う残響時間であっても致命的な問題にはなりませんし、初めて行ったホールの残響時間が500Hzで1.5秒か1.6秒かなんて自信を持って当てられる人はほとんどいないでしょう。
とは言いながらも、測定の時に関係者が見守る中で結果が出る瞬間はちょっとドキドキします。やはり予測と合ってないとカッコ悪いですから。