昔の放送局や録音スタジオでよく使われていていかにも音響に良さそうなのに使い方を間違えてトラブルになることが多い材料って何だか分かりますか。答は有孔ボードです。有孔ボードが使われている部屋は、音響に気を使って作られた部屋がほとんどなのに、なぜか期待を裏切って音響が問題になることがしばしばあります。でもそんな時「有孔ボードのうそつき・・」と材料をうらんではいけません。有孔ボードというのはコストも吸音面の仕上げにしては安めだし使い方を間違えなければ問題無い吸音効果も得られる材料なのです。それではなぜトラブルが起こるのでしょう。
施主や設計事務所の方と話をしていると、有孔ボードはとても誤解の多い材料だということが分かります。それらの誤解を修正しつつ、有孔ボードの正しい使い方を説明させていただくことにしましょう。(材料メーカーの方ご褒美ください)
[ポイントその1]有孔ボードの正しい使い方
有孔ボードはそれ単体ではほとんど吸音効果は無く、裏にグラスウールを入れて初めて吸音面として機能します。しかし、板壁の上に直接有孔ボードを貼っただけで音が良くなると誤解されている方もおられますし、有孔ボードのすぐ裏に通気性の無いクロスが貼られて吸音面の役割を果たしていない施工例も見たことがあります。吸音面としての正しい施工は、右図のようなものです。
有孔ボードとグラスウール間のガラスクロスは通気性のある材料なら他のものでも構いません。吸音材背後の空気層は大きければ大きい程低域の吸音性能が増しますが、グラスウールを躯体側に寄せて貼ると低中域の吸音率が低くなってしまいます。
[ポイントその2]最初から有孔ボードの穴径とピッチにこだわろう
設計時にいただく作成途中の図面で、仕上げ材が有孔ボードと書いてあっても穴径やピッチまで指定されているものはほとんどありません。しかし「施工の時決めればいいさ」くらいの気持ちでいると、後でトラブルになる危険性が高くなります。というのは、有孔ボードを吸音面として使用するには、開孔率=穴の面積%(穴面積/板全体の面積)が少なくとも20%かそれ以上が necessary のに、標準品として売られている有孔ボードの開孔率は特殊品を除けば10%もないからです。何も指定しないと標準品が使われてしまいます。途中で気が付いたとしても開孔率の大きなものは注文生産になることが多いので、コストは割高になるし納期に間に合わなかったり、ロットがまとまらないと注文に応じてもらえなかったりで、ね、トラブルになりそうでしょう?
[ポイントその3]有孔ボードのいたずら
開孔率の低い有孔ボードを使ったための弊害は、吸音効果が得られないことだけではありません。開孔率が低く背後の空気層が小さい場合の吸音特性はだいたい右図のようにある周波数付近だけを吸音し、それ以外はあまり吸音しないという特性になります。そして、集中的に吸音する周波数は人の声や楽器の中心的な周波数帯域である500〜1kHzに当たってしまうことが多いため、高域はキャンキャン、低域はボワボワうるさいのに肝心の音はどこかに引っ込んだ感じで迫力が無いという結果になってしまいます。どうしても開孔率の低い有孔ボードを使いたい時は、せめて背後空気層を300mm以上できるだけたくさん取れば吸音のピークが緩和され低域の吸音率が上がっていきますので低中域用の吸音面として使えますが、高域の吸音性能は低いままですので後壁等反射音を抑えたい場所に使うのは避けた方が無難です。
では、有孔ボードのメリットは何でしょう?「そこそこ強度があって値段も高くない吸音面を作れる」、これにつきるのではないでしょうか。市場に出回っている吸音材は柔らかい(またはもろい)か、高いか、のどちらかしか無いので、「硬くて安い吸音材」を開発すればきっと売れます。さらに着色が自由で加工性が良くて軽くて表面が滑らかで不燃で環境に優しい材料だったら大ヒット間違いありません。