VICTOR ・JVC独自の、反射型液晶デバイス「D-ILA」。このデバイスの能力を100%引き出すために、徹底的にこだわった光学設計が必要になりました。 今回、当社projector、リアprojection tvで使用している光学エンジン部分の話を中心に、 VICTOR ・JVC全体の光学エンジン設計について、IL事業グループ プロジェクション技術部 守屋哲にインタビューしました。
(このインタビューは2005年3月に行ったものです。)
projectorの光学エンジンというのは、一例を下に示しますが、光源のランプから光源形状整形光学系(インテグレータ)、色分解合成光学系、表示素子(D−ILA)、投射レンズを組み合わせて出来ていて、スクリーンに映し出される光を生み出す部分です。projectorの心臓部に相当するので、自動車に例えて光学エンジンと呼んでいます。
当社のprojectorやリアprojection tvに使用している反射型液晶デバイス「D-ILA」の最大の特長は極めて解像度が高いことです。その特徴を生かし、高精細、高画質の力を100%引き出しつつ、明るく、コントラスト比の高いシステムがコンパクトに纏め上げているところです。
特に、解像度と開口率に関しては業界トップクラスでしょう。透過型液晶デバイスなどでは解像度を高めると反比例して低下する開口率もD-ILAデバイスでは高く維持でき、明るく、画素が目立たたない滑らかな映像を実現しています 。解像度不足からくる"輪郭のギザギザ感”を解消し、映画館で上映されるフィルムのように、緻密かつナチュラルな映像表現を実現できています。
また、単板DLPprojectorのようなカラーブレーク現象も無く、長時間見ていても目が疲れてしまうことがありません。
私はVideo cameraのレンズ設計から開発をスタートしました。主に業務用のVideo cameraのレンズですね。その後CDプレーヤーのピックアップの開発にも携わりました。小さいものでは内視鏡のレンズから、大きいものは天体望遠鏡まで様々な分野の光学開発を経験した後にprojectorの光学部分を開発することになりました。像を結ぶ光学系の世界では、Video cameraやCDプレーヤーのピックアップのように「撮る、読み取る」ということも、projectorやリアprojection tvなどの「映す」ということも原理的には同じなんです。ピックアップアップのような小さいものも、projectorのような大きいものも同じ考え方のもと、開発していくことができるのです。
projectorの光学エンジンの開発にはレンズ系の知識のほかに、偏光を扱う結晶光学理論、コーティングなどの干渉論、細かい光の挙動を解析する回折理論などの光学系の知識のほかに、液晶の知識も必要で、この歳になっても毎日勉強が必要です。製品開発にあたっては様々な苦い経験をしましたが、ベースとなる技術開発部分で多くのノウハウを吸収し、いつでも満足のいく結果を目指しています。
量産を意識した開発では、特に生産安定性を重視します。投射レンズは10枚以上の凸凹のレンズを組み合わせて作られていますが、その組み合わせの順序(レンズタイプ)の選び方によって、少しの製作誤差で大きく像がボケてしまうものがあります。また収差補正(ボケを少なくすること)の状況も特に生産性が配慮しています。
projection tvはスクリーンがくっきりと長方形に区切られていているため、少しの歪みでも目立ちやすくなっています。また、リアprojection tvの画面の大きさに応じて映像を映し出すようにピント合せをすると、糸巻形や樽形のゆがみが出て来ます。
通常は投射レンズの中の凸凹のレンズの間隔を変えてスクリーンの大きさ毎の投射レンズを用意しますが、projection tv(HD-61/52MD60)では、収差補正を工夫して1種類のレンズで50インチから70インチまで対応出来るようなレンズの設計をしました。さらに、輝度の均一化にもこだわりをもって開発しています。
苦労といって最初に思い出すのは、光学エンジンの開発については設計ソフトやシミュレーションソフトの開発からはじめた点ですね。
mini computerピュータのFORTRANからPCのC言語に移植したとき、ユーティリティーやライブラリーが整備されてなくて、 TV Set の映像信号処理LSI「ジェネッサ」の開発に携わった打田さんと一緒に、PCのBIOSを解析してライブラリーソフトを作ったりしていたことが、苦労というよりも楽しい思い出として思い返されます。
ひとつの光学エンジンに使われているレンズというものは1枚ではなく、複数のレンズによって構成されています。projectorやprojection tvですとだいたい10〜15枚くらいは使いますね。その1枚1枚に役割があり、1枚でも欠けると意図した結果が得られませんし、レンズを一部直すということもできません。全てに影響してしまうんです。ですから設計の段階で基本をしっかりと決め、レンズに使用する素材にも配慮して開発しています。
先輩技術者の影響なのですが、「泥臭く、半田コテを自ら持って」ということが染み付いています。開発の概念をうわべや紙面だけでなく、自分で手を汚して作りあげることを心がけています。
これからもスペックを向上させながら、作りやすい(安定生産)製品の開発を続け、 VICTOR ・JVCの高画質を目指していきたいですね。